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「言葉と貨幣は似ている」と田中泰延は言う。

西島知宏 西島知宏


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これから本当に使えるライティングを、各方面で活躍中の講師陣から学べる「明日のライターゼミ」、2期の募集に際して講師の一人である田中泰延さんに、そこんとこインタビューしました。

「書く」という仕事について

西島
本日は、よろしくお願いします。最初に言っておきますが、ヌード撮影はありません。

田中
え?

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前回の対談で、ウォーミングアップに時間がかかりすぎたので、最初にお伝えしておきます。

わかりました。最後に脱ぎますね。

そういうことじゃなくて。

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まず、最初に。普段ふざけたことしか言わない田中泰延さんが「どうしちゃったのか」と思うほど、ライティングに関して真面目な話をされる予定の「明日のライターゼミ」。4月からの2期でも登壇されますが、そもそも、どうしてこの講座で教えようと思われたのですか?

あんたに頼まれたからや。

そうでした。このくだりも飽きてきました?

はい、毎回やらされてるので。

では、「明日のライターゼミ」の核心に迫る質問をしたいと思います。これから、ライターの仕事はどうなると思いますか?

良い質問です。ナポリタンを食べるサラリーマンがいる限り、なくならないと思います。

なるほど。サラリーマンにとってナポリタンは必要不可欠な存在。Yシャツにケチャップが飛んだとしても、そんなものは真っ白に洗い流せばいいじゃないか。って、ハイターの話はしてませんけど?

温まってきました。

勝手にウォーミングアップしてたんですね。

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「書く」を教えるということ

先日ご登壇頂いた「明日のライターゼミ」。1期生への課題は「明智光秀に関するコラム」でした。

【第1期の課題】
本能寺の変を起こし織田信長を殺した「明智光秀」についてコラムを書いて下さい
 
【コラムに求めるもの】
・悪者として描かれがちな明智光秀のイメージを変えて欲しい
・明智光秀の功績、人となりを伝えて欲しい
・「なぜ明智光秀は主君を殺したのか」について自分なりの解釈を書いて欲しい
・歴史や明智光秀に特に興味のない層にも伝わるものにして欲しい

受講生のコラムを読んで、感じられたことなどあればお聞きしたいです。

まず、課題を出してくれたのが64人。ものすごい熱量で驚きました。最低4,000字という条件付きだったので「私は受講するだけでいいので書きません」とか「10枚は書けません」という答えも沢山あるかと思ったら、ほとんどなくて。「書きたい」という衝動がこんなにもあるのかと、素直に感動しました。

逆に、良くなかった傾向があれば教えて下さい。

前回のインタビューでも課題を出した時にも、言ったことなんですけど、「調べること」が徹底されていなかったことですかね。「明智光秀」というテーマを与えられて、一次資料まで当たれた人が少なかった。そこが少し残念でした。

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大半の人は、ググって調べる、ウィキペディアで調べる、Amazonで「明智光秀」がタイトルに入っている本を買う、またはYouTubeで昔やっていたNHKの番組を見る。この辺で止まっているんですね。全員の提出物に講評を書いて返却したのですが、ほとんどの人に「これでは調べたことにはならない」「調べるという所まで至っていないです」というアドバイスをしました。

成績優秀者上位5人を会場で発表しましたが、共通点はまず一次資料に当たっていたという所ですか?

一次資料に当たったことで「自分が今まで知っていたこと、最初に思っていたことと違ったぞ」という気づきがあるかないかですね。「調べる」ことの意義はそこなので。

なるほど。加えて、足を使ってインタビューに出かけたり、第3者の声もプラスしている人は、評価が高かったんですか?

そうですね。じつは「明智光秀」という課題を出したきっかけはというと、以前、福知山の人と話をした時「明智光秀は福知山では大ヒーローだ」ということを聞いたんですね。「明智茶屋」なるカフェまであったりして。それが凄く意外だったんです。

「明智光秀」という課題を出して「福知山まで辿り着く人が何人いるか」を見たかったということですか?

福知山という大きな街では周知の事実なので、少し調べたらそこに辿り着くだろう。だから、それを一つのゴールにしようと思っていたんです。ところが、福知山に辿り着いたのは優勝した高桑のり子さんぐらいでした。だから調べたとしても、なかなか行くべき所には到達しないものだな、という発見もありました。

「調べきれていない」ということの他に、上位に行かなかったコラムに共通する点はありますか?

「愛」を持てていないということですかね。対象に対して愛がないまま10枚書く、これは辛かったろうと思うんです。「明智光秀」というお題を与えられたら、調べる過程で「明智光秀のどこかを愛する」という作業をしないといけない。それができないと辛いままなんです。

対象を愛するというお話は、田中さんがいつも仰っていることですね。

例えば映画って何百人、何千人が心を一つにして作るじゃないですか。だから、最低の評価を受ける映画でも、良い所はあるんです。そこを愛して、その愛した部分を「全力で伝えるんだ」という気持ちで書く必要があるんです。愛が生じなかったら、これはもう書いていても意味がない。その辛さを引きずったまま10枚書いている人も沢山いて。

その「愛するチャンス」が一次資料に隠れているということなんですね。

そうです。映画だと「あのシーンの意味は?」となった時、古いイギリスの戯曲から採っているとか、シェイクスピアの一節を引用しているとか。「子どもの頃から、この監督は聖書のこの一節を教会や親に聞かされて育ったんだな」「だからこれを決めゼリフに持ってきたんだな」とわかると嫌でも愛が生まれてくるんです。愛するポイントを見つけられれば、お題がキャラメルでも牛乳でも映画でも良くて、それをそのまま伝えれば記事になるんです。

書くプロセスの初期に、ここだったら好きになれそう、というポイントを決めてしまっても良いのでしょうか?

「愛する」には2つありまして。1つは先ほど言ったように、雲をつかむような話だけど、資料を当たっていくうちに「ここは愛せる」というポイントが見つかる。もう1つは西島さんが仰ったようにざっと見て「ここが愛せそうだな」と思ったポイントの資料を掘る。自分の論を強化するために良い材料を揃えるのもやり方として全然ありだと思います。

受講生の中に「明智光秀はハゲいじりされていた」というコンプレックスの面から話を展開されている方がいらっしゃいましたが、現代の人間関係に当てはめて自分なりに共感を作って、そこから掘り下げていくやり方もあって良いということですよね?

そうです。

ライターから見た「編集」という仕事について

田中さんは「明日のライターゼミ」の他の講義も、いくつか見られたと思いますが、感じられたことはありますか?

全部通しで授業を受けるべきだなと思いました。講師は全員「書く」という仕事をしていますが、様々な視点がありました。このゼミでも登壇される古賀史健さんが「カツセマサヒコさんと田中さんの講義を聞いたけど、話しているレイヤーが違っていて面白かった」と仰っていたんですね。

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カツセさんは「Webの記事をいかにバズらせるか」「Webというものはタダで読めるけどそのぶん離脱する人が多いから、最後まで読んでもらうためにはどうするか」というテクニック、つまり戦術の話。私は「言葉を扱うのはどういうことか」「書くべき領域はどこなのか」というストラテジー、つまり戦略の話。Webライティングの話なのに全然レイヤーが違う。でも両方聞いておかないとだめです。だから、2期で編集という視点が増えると、もっと実践的になると思います。

2期では、編集視点の他にメディア視点の講義もあり、博報堂ケトルの嶋浩一郎さんやピースオブケイク社の加藤貞顕さん、ノオトの宮脇淳さん、ダイヤモンド社の竹村俊助さんなどにご登壇頂く予定です。

素晴らしい。

編集という話が出ましたが、ライター田中泰延から見て「良い編集者」はどういう人ですか?

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書く方は何とか間に合わせたいと思って書いてるから、あまり取り立てない。言われた方は、ハワイのビーチで寝ていることはない。絶対寝ないで「ごめん、遅いけど、頑張ってる」って書いてる。だから待てる人が良いかな。

街クリは結構取り立ててますもんね(笑)

私も原稿がよく遅れるので「お前が言うな」という所もあるのですが、私が考える「良い編集者の条件」は3つあって。まず、依頼したら待つ姿勢。次に、上がってきたものを褒める姿勢。最後に、直しが必要な時に言い方がうまい人です。

対峙するのではなく、同じ方向を向くということですね。

あと、紙の媒体だと、編集者と書き手が「テーマを決めましょう」とか「この方向で書きましょう」とかじっくり話し合いますけど、Webでそれをやっちゃうと、スピード的にも、案件の数的にも回らないですよね。それはライターが自主的に決めないといけないことになってきたと思います。

ライターとして1年やってみて

電通のコピーライターを辞められて1年ちょっとですね。

もう1年2ヶ月。

辞めて1年2ヶ月、文章を書いてきて、書くということに対して、辞める前と後で変わった部分とか違った部分があれば、お聞かせ頂けますか?

比較的自由に書かせてもらっているので、それは良いのですが。違うと思うのは、書いて、例えば10万PVの記事になったとしても意外と知られていないなという。この知らなさの凄さ。

確かにTwitterでフォロワーが10万人いたり、10万PV行った記事でも、属性が変わると全く誰も知らないということはありますよね。

先日、あるテレビ局のパーティーに出たんですが、私のことを知っているのは1人しかいませんでした。これが広告業界になると、半分ぐらいが「泰延さんですか」って話しかけてくれるでしょ。「最近辞めていろいろ書いていますね」と。ライターや編集業界になると、8割、9割が「田中さんじゃないですか。うちでもなんか書いてくれませんか」という話になる。

えらい差ですね。

つまり、みんな時代がどうのこうのと言っているわりには自分の業界しか知らないんだな、と。そのテレビ局のパーティーで一番話題になっていたのは「◯◯テレビのアナウンサーの◯◯さんは、こんど新しい番組を担当するんだって」「それはすごい! アナウンサーの◯◯さんは新番組に起用されたんだ!」という話。そんなこと世の中的にはどうでも良いっていう(笑)

Twitterのフォロワー10万人って言ったら凄いですけど、逆に言えば10万人しか知らないという考え方もできますもんね。

テレビの視聴率、全国ネットのドラマ、1%でも100万人とかが見てるわけじゃないですか? ということは、10万人が読んでる記事と言ってもテレビの0.1%しかないってことですもんね。

一方で田中さんは「これからは自分を売ることが必要」と仰ってますし、2期の講義も「自分を売るためのグループワーク」となっています。

はい。個人を知ってもらうと次がありますから「自分を売る」ことは重要です。

企業内ライターもこれから個人の時代が来ますよね。何かの宣伝を任せる時にフォロワー10人のクリエイターが担当するより、フォロワー1万人のクリエイターが担当した方が良いわけで。田中さんが前回の対談で仰っていた「あの人は凄い。でも、あの人、サラリーマンらしいよ」「えっ? サラリーマンなの?」という時代が来る。

今はコンプライアンス的に「個人に好き勝手やられるのは嫌だ」と考える企業が大半だと思いますが、個人を売ろうとしない企業はどんどん取り残されていくと思います。

個人で売り込む力のある人は、会社の後ろ盾がなくなっても生きていけますもんね。

自分の辿った道、辿りたい道を、会社に煙たがられたら辞めれば良いじゃないですか。辞めても道はあるし、稼げますよ、頑張れば。はみ出せるぐらいの人は絶対「お前ははみ出すぐらいの人間だから、ちょっとお金あげるから好きにはみ出してみて」という人が現れますから。

紙とWebについて

最近すごく衝撃的な出来事があって。平昌五輪で羽生選手が金メダルを取った時、号外がメルカリで売られていたじゃないですか。ヤフーニュースをブックマークすれば良いだけなのに、わざわざお金を出して無料で配っていたものを買うって、どういうことだろうと。

確かに。みんな紙で印刷されているものを引き出しの中に入れていたいんでしょうね。

紙の記録性というか、デジタルと紙って同じ情報が載っていても全然違うんだなと。

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実は私、小さい出版社をつくろうと今準備しているんです。一人出版社。Webで連載したことでも、まとめて本にしたらまた別の価値が出てくる。

紙のコンテンツって、Wi-Fiを繋げなくていいとか、電源がいらないとか、プロがちゃんとレイアウトしているとか、当たり前といえば当たり前なんですけど、その当たり前が思っている以上に価値のあるものだったりしますよね。

全ての馬は競走馬になるという話があります。

競走馬?

昔、馬というのはあらゆる仕事をしていたでしょう。人を乗せたり、荷物を運んだり、農耕したり。でも、それが全部自動車とか列車とかトラクターに置き換わった。そうしたら、競走馬だけが残ったんです。美しくて強くて鑑賞に耐える、エンターテインメントを提供してくれる馬だけが残った。車もそう。もうガソリンで走る車なんて、エンジン音が凄くて、何千万円、何億円もするスポーツカーだけが残る。あとは全部自動運転の電気自動車になる。

完全な実用と、実用からかけ離れたモノの二極になっていくということなんですかね?

そうです。羽生くんの号外も実用じゃないですよね。情報としてはもう、ヤフーに一行書いてある「羽生が金メダル」でOKじゃないですか。

「書く仕事」も実用と離れた所に向かっていくと、ファクトを伝えるニュースとかは、どうなるんでしょうね。

競走馬だけが社会で愛でられて残る、スポーツカーだけが残るといったって、1人でやっているわけじゃないですよね。競走馬は種付けの人がいて、血統を守る人がいて、厩舎(きゅうしゃ)の人がいて、調教師がいて、騎手がいるでしょう。スポーツカーだって、スポーツカーのエンジンをつくる人、タイヤをつくる人、デザインする人、運転する人。それが1つのユニットになって残っていくんです。それが編集とライターとデザイナーだったりすると思うんです。そういうプレミアムというか、価値のある生き残り方は絶対あるし、それはむしろWebでただでいくらでも読める時代やからこそ高価格化すると思うんです。

前の対談で仰っていた「一部の優秀なライターだけが残って、他の人はお金を払って読んでもらうようになる」という話ですよね。そしてその一部の優秀なライターになるために「調べる」「自分を売る」ということが必要ということなんですよね。

またいい感じにまとめましたね。

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最後に、未来の2期生に一言下さい。

言葉と貨幣はすごくよく似たコミュニケーションツールだということをお伝えしておきます。

言葉と貨幣ですか?

はい。言葉と貨幣はそっくりで、流通する、交換できる、それからお互いに価値を担保し合うことができる。ほぼ同じものなんです。

なるほど。

言葉をうまく使う人と、お金をうまく使ってお金持ちになる人のツールとしての使い方はそっくりなんです。大事なのは、相手の利益になる使い方をすれば、自分の持ち物が増える。それを意識すれば良いライターになれるので、2期ではそういった話をしようと思っています。

本日も内容の濃いお話をありがとうございました。最後に、ヌード撮影はありません。

え?

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せめてジャケットだけでも

致しません。

編集後記

今回も9割が雑談のような対談だったが、気がついたら沢山のメモを残していた。田中さんとの対談が雑談だと感じてしまうのは、一見本質から外れたようなモチーフが沢山出てくるからなのかもしれない。ライターの話をしているのに競走馬の話が出てきたり、言葉の話をしているのに貨幣の話が出てきたり・・・。しかし、あとで対談をまとめてみると、驚くほど筋が通っている。優れたジャンパーがどれだけ高く、遠くへ飛んでも、着地をしっかりと決めてしまうように。
 
「優れたクリエイターは、脱線を繰り返しても、正しい目的地に連れて行ってくれる」
 
新入社員の頃、上司に言われて理解できなかったこの言葉に今、とても実感を持てる。
 
 
そんな田中さんから「書く」を学ぶ「明日のライターゼミ」、ただ今2018・秋生を募集中です。興味のある方は募集ページをご覧下さい。

[撮影]Yoshiko Matsunaga

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