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沈黙の彼女が考えていること【連載】さえりの”きっと彼らはこんな事情”

さえり さえり


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昨日まで普通だったのに、こんなあっさりとした別れ方ってあんの? とヨシヒコは居酒屋で友人にグチるが、友人は「お前が振ったんだろ」という。「いや、そうなんだけど・・・。こんなにあっさり別れるのは嫌で・・・」「じゃあどんなこってりな別れ方がいいんだよ」「いや、ラーメンじゃないから・・・」とハイボールをグイグイのんで、ヨシエの好きなところばかり思い出している。

 

男は別れてからはヨシエのことを思っていたが、一方ヨシエは妙に清々しかった。

「それにしても急じゃん?」とバジルソースパスタを頬張る友人に、「いや、前から考えていたから」と和風カルボナーラを頬張りながら答える。

「疑うことの何が一番いやって、疑っている間中、自分がブスな顔していることなんだよね」

ヨシエは言う。

「眉間にしわ寄せて、ため息ばっかついて。血眼にして相手の女の素性調査してさぁ。もう、そんな自分でいるの、嫌なんだよね」

友人は「えらいなぁヨシエは」と言い、「タグ付け男なんて忘れよう」「よっしゃ、次の男探そう!」と二人で盛り上がる。女は、一度思い立つと、もう戻らない。

 

かわいそうなヨシヒコ。安易なヨシヒコ。
もう脈もないのに、2ヶ月も経ってからやっとヨシエを呼び出した。
もう遅いとは知らずに。
ヨシエは決意している。もし「ヨリを戻したい」と言われた時は断ろうと。

 

揺れるまい。揺れるまい。たとえヨシヒコが渾身の笑みを披露しても、とびきりの褒め言葉を用意しても、過去の思い出話をしてこようと、会えなかった2ヶ月どれだけヨシエのことを考えていたと言おうと、揺れるまい。他のことを考えてでも、揺れるまい。
そう決意しているヨシエは、ヨシヒコと目が合うたびに気持ちをそらそうと心で唱えている。
ヨリを戻そうなんて、ばっかじゃなかめぐろ・・・。なにゆうてんじ・・・。
そしてこの会話に到達する。
男:「久しぶり。中目黒なんて久しぶりにきたわ」
女:「うん・・・(もうお前に気持ちはなしぶや)
男:「髪切ったね」
女:「あ、うん・・・(もうおわったことだいかんやま)
男:「ばっさりいったね。かわいい」
女:「ありがと・・・(ばっかじゃなかめぐろ)
男:「相変わらずかわいいね」
女:「・・・・・・(なにゆうてんじ)
男:「最近どう? 俺なんかさみしかったわ」
女:「・・・(君の話はどうでもいいのですがくげいだいがく)」
男:「(頭を撫でながら)何で黙ってんの?」
女:「・・・(さっさと離れとりつだいがく)
そして最後に彼女は心の中でこう言うはずだ。

 

男:「ねえ、俺らさあやっぱりヨリもどさ・・・」

女:「ごめん、無理(もうわたしは君からじゆうがおか・・・!)

 

と、まあこんな具合に違いない。いや、今回に限ってはだいぶ異なるような気がしてきた。わたしも何でこんな原稿を深夜2時に書いているのかわからない。

ちなみに、「ばっかじゃなかめぐろ、なにゆうてんじ」はドラマ「やまとなでしこ」での主人公桜子のセリフだ。知人のツイートには「もうどうでもいいだばし」が付け加えられていて至極気に入っている。

いつか「ばっかじゃなかめぐろ、なにゆうてんじ、もうどうでもいいだばし」とツイートしていたあの子のような心境を持って元カレと対峙したいという気持ちが、今回の妄想には強く影響してしまったけれど、まあそういうことだ(どういうことだ)。

ちなみにわたしはこの男女の会話の途中でどうしてもトイレに行きたくなってしまったので続きを知らない。

戻ってきた時には二人はもういなくなっていた。どうか彼女が、もうあの男からすっかりじゆうがおかになっていますように。おわり。

【過去の「さえりの”きっと彼らはこんな事情”」はこちら】
”やり投げ”みたいだよ
20代のあれはなんだったんだ
電話にでない女
「結婚する気ある?」

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