沈黙の彼女が考えていること【連載】さえりの”きっと彼らはこんな事情”

さえり さえり


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カフェで人の話を盗み聞きするのが好きだ。盗み聞きなどよくないとは知っている。知っているけれど、ひとりで店に来て、仕事をして、休憩がてらボーッとしていれば人の会話なんてBGMがごとく勝手に聞こえてくる(という言い訳にしている)。

カフェに来るまでは見たこともなかった人の人生が、少しだけ垣間見える瞬間。わたしは涼しい顔をして遠くを見つめながら、会話に脳内参加する。「うそ、まこっちゃん、そんなことするの?」とか「なにそれ、わたしも行ってみたい」とか。そうしていると、人生が少しだけ交差したような気がする(実際にはこちらの情報はひとつも漏れていないので、交差したとは言いがたいが)。

その日もわたしは中目黒のカフェでカフェラテなどを飲んでいた。

「えー! うっそぉ」と大きな声に気を取られ、原稿に集中できなくなり、隣の席の会話をぼんやりと聞く。

おそらく大学3〜4年生くらいの女の子4人組。みんな空になったグラスを前に会話をしている。黒髪でちょこちょこ大企業の名前が聞こえてくるから就活生のようだった。

あの企業がどうだったとか、あのオフィスはすごかったとか、散々話したあと誰かが大きなため息をついて「疲れたンゴ〜」といい、隣の友達が「ワイも」といい、もう一人が「なに? タンゴ?」と聞いて、「タンゴじゃね〜〜〜〜!」と誰かが言い出し、みんなが一斉に笑う(「ンゴ」はネットでよく(?)語尾に使われるスラングであり、決してタンゴではない)。

あぁ、何と平和なことか。

わたしも「疲れたンゴ」とか「眠いンゴ」とか友達と言い合ってゲラゲラ笑いたい・・・と思ったところで、女子大生たちと反対側の隣に男がやってきた。

 

「お待たせ」。

 

その一言と、女の子側の微妙なテンションの「おつかれさま」で、一瞬で何とも言えない空気を感じ取る。

(喧嘩中のカップル、かな・・・? どう思う、カフェラテ?)

余りの長い沈黙に耐えられずわたしが脳内でカフェラテに話しかけていると、女が「久しぶり」と言った。

 

男:「久しぶり。中目黒なんて久しぶりにきたわ」
女:「うん・・・」
男:「髪切ったね」
女:「あ、うん・・・」
男:「ばっさりいったね。かわいい」
女:「ありがと・・・」
男:「相変わらずかわいいね」
女:「・・・」
男:「最近どう? 俺ぶっちゃけ、さみしかったわ」
女:「・・・」
男:「(彼女の頭を撫でながら)何で黙ってんの?」
女:「・・・」

 

突然手を伸ばしたので何かと思ったら、頭を撫でているではないか。女の子側は、妙に沈黙をつくっている。(隣なのであまり見えないが)何かを考え込んでいるようにも見える。

 

「・・・・・・」

 

こ、この間はなんなのだ!!

きっと彼らの事情は、こうだ。

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