【Be My Baby】
Be My Baby Vanessa Paradis
その後、糸井さんは、永田泰大さんも交えて、私たちを一箇所に集めた。
私たちはそれを望んだにせよ、望まないにせよ、なにかを書く人だった。暗い夜の部屋で、一人でキーボードに向かい合う時間を持つ人間たちは、その孤独と因果をよく知っていた。
その夜、はじめて私は彼をカメラにおさめた。後にも先にも、彼だけを撮った写真は、これしかない。
【数え足りない夜の足音】
数え足りない夜の足音UA
Reference:YouTube
それから、我々は糸井さんから共通のテーマを与えられ、文章を書き、出版し、そして書くことについて話し合った。その時の会話を、少しだけ引用したい。
永田泰大
「燃え殻さんの小説の原稿って、
田中さんに、最初にお見せしたという話を聞いてるんですが」
燃え殻
「一般的にこれはアリだよ、一般的にこれはナシだよ、というジャッジを下してくれる人って、誰だろうと、考えたんです」
田中泰延
「燃え殻さんからのメッセージには “ 僕は、あなたのことは好きではないが、これを送ります “と書いてありました」
燃え殻
「書いてない書いてない」
田中泰延
「すみません。書いてませんでした。きっと燃え殻さんは、田中というエセ知識だけは豊富にありそうな奴に読ませたら“これは、誰かの何かの作品に似てる”という部分がチェックできるって思ったんでしょう。
だからもう、怖かったですよ、その夜。
“何で、俺に送りつけてきたんだ?”
“最後まで読むしかないし、読んだら何か返事を出さなきゃならないじゃないか”
みたいに考えたら、怖くて。
“何なんだ、これは?”と思いながら読み出したんですが、止まりませんでした」
糸井重里
「田中さんは、どんな返事をしたの?」
田中泰延
「僕も、それなりに小説は好きなんですが、“僕が知ってる範囲で、やっぱり見たことない小説です”って」
・・・ただ、私と彼の言うことにはもちろん、少しづつの嘘がある。誰かに語って聞かせるそのかすかな嘘にこそ、ものを作ることの本質がある。