先日、スーパーで
豆苗は、根の部分を水に浸けておけば1週間程度でまた生えてくる。経験上3~4回までは収穫できると思う。それを「お得な野菜よね」と言って買っていた時期もあったのだけれど、いまのわたしはどうしても豆苗を台所に置きっぱなしにしたくなかった。
ただでさえ外食続きの毎日で次いつ料理をするかわからないし、狭い台所に豆苗を出しっぱなしにしておくと散らかっている部屋が余計に散らかっているように見えるのがなんとなく嫌だった。
それで、スーパーで豆苗を見かけたときに「どうしよう、今すごく豆苗が食べたいけど、このあと育てるの嫌だし、かといって捨てるのは勿体無いし、悩ましい野菜だから買うのやめようかな?」と思った。けれど「いや、今食べたい気持ちの方が大事よね。一回美味しくいただいたら捨てよう。人生において大事なのは“今”! 一瞬一瞬を幸せに生きよう〜〜!!」と思い直して購入した。
なのに。
なのに、一度食べたあと、わたしは豆苗を捨てられなかった。「美味しく食べたのだから、あとは捨てるって決めたじゃない」と何度も自分に言ったけれど、ダメだった。
(まだこの豆苗食べられるのよね・・・・・・)
と思ってしまったのだ。
結局お皿に乗せて育てた。
毎日水をやりながら、(わたしってほんと、そういう女よね)と自分にちょっとがっかりした。こういうところ昔からあるよね。(まだ着られる)と洋服が捨てられなかったり、(もうやめたい)と思いながら彼氏と別れられなかったり、(まあ嫌ではない)と好きでもない人とデートしたりすることがあるよね? あったよね? ほらそういうとこだよ? それが豆苗に出ちゃってんだよ? と自分で思った。
・・・・・・え、冒頭からやたら豆苗について語ってくるやん、なにごと? と思ったかもしれない。まぁまぁ豆苗のことはさておき、連載の本題に入ろう。
さて、他人の事情を勝手に妄想するこの連載だが、東京という街は本当に歩いているだけで面白い。いろんな人がいて、安心する。
先日、センター街の自販機でコーヒーを買っているおじさんが電話に向かって「だから! いま走って向かってますからぁ!」とでかい声で叫んでいるのを目撃し、「見習おう」などと思った。あんな風に堂々とした嘘をつきたい。
そう思いながらぼんやりとスクランブル交差点を渡り、地下鉄に向かおうとしたその瞬間、こう聞こえた。
「20代のあれはなんだったんだ、って!」
目をやれば、語気強めにバンドマン風の男に語っている女(推定32歳)がいた。
少し色の落ちたヤンキーみたいな黄色い髪をしていて、一瞬目があったが、さくさく歩いて行ってしまったので耳を澄ませど続きは聞こえなかったけれど、気になった。
そんなに力を入れて、何を力説しているのだ。隣の男はまるで興味なさそうな顔つきだったが、それすら気づいていないくらいに熱弁していた。
彼女の事情は、こうだ。