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20代のあれはなんだったんだ【連載】さえりの“きっと彼らはこんな事情”

さえり さえり


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きっと、彼女の事情はこうだ

彼女の名前はたぶんノリコ。ああいう語気の強さを持ってバンドマンに語りかけているような女の名前は“ノリコ”にちがいない。

ノリコは音楽が好きで、今は小さな音楽レーベルでマネージャー兼PR担当をしていると思う。小さいころから父ちゃんに「ノリノリのノリコ」というくだらないジョークを言われていて、9歳までは笑い転げていたがその後は嘘笑いをして育ったっていうような顔をしていた。

社内であまり活躍できていないことが悩みではあるが、それでも小さなレーベルとしては彼女のように一生懸命に働いてくれること自体がありがたかった。彼女はもうそこで7年働いている。

隣にいた男は、彼女が担当しているバンドのベースで、バンド名は独断と偏見により「狂犬連発ピストル」だと思う。ああいう黒ずくめの男のバンド名はこうでなければむしろ合点がいかない。

ノリコはノリノリのノリコの名のごとく、自身も音楽をしていた。大学の時には、親友のカナエがギターを弾いて、ふたりで路上ライブをしていたこともある。

「何歳で結婚したい?」「え〜。29かなぁ〜」

ノリコの親友であるカナエとは、20代のころはこんな話ばかりしていた。カナエは就職活動になるとあっけなく音楽を捨てて、大手企業の事務職に就いた。

「音楽やってても、いいことないし」とカナエが言い捨てたのは、マサトシに振られた日のことだった。マサトシはバンドマンで、路上ライブをしているときに道路の向かいで歌っていたことをきっかけに仲良くなった(登場人物が多くなってきてややこしいが、妄想を続ける)。

マサトシにこっぴどく振られて以来、ノリコとカナエの価値観は「結婚するなら、愛より“経済的安心感”」というところに落ち着いた。

「やっぱり子供を育てるんだったら収入が安定している人がいい」とか「刺激より“安定感”」とか言い合って、「穏やかな幸せを見つけようね!」なんて20代前半から後半まで言い続けた。

けれど実際のところ、ノリコはもう6年もズルズルと付き合っている男がいるのだ。

レーベルに就職してから出会った男で、DJ志望。ほぼヒモ。こんな男と付き合い続けても将来がないことくらいわかっているから3年前に一度別れたはずなのに、結局またずるずると彼と距離を縮め、付き合ったり別れたりを繰り返している。

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