物語は、フロリダ州マイアミに実際にあるリバティー・シティという地区が舞台なんですね。アフリカ系住民だけが七百数十世帯住んでいて、アフリカ系だけが通っている小中学校もある、ようするに黒人オンリーの地域なんですよ。
バリー・ジェンキンス監督とタレル・アルヴィン・マクレイニーという人が共同で脚本を書いたんですが、パンフレットを読むと、マクレイニーが以前書いた“In Moonlight Black Boys Look Blue”という戯曲がもとになっていると。彼が自分の子供時代を物語にしたんですね。で、ジェンキンス監督とマクレイニーさんは、後から知ったけど同じリバティー・シティの同じ小学校に通っていて、境遇や見て育った景色がすごく似通っていると。なので、この映画は、同世代、同じ小さな町の2人の黒人の自伝的物語と言えるんですね。
第一部 リトル
さて映画は第一部です。主人公のシャロンは小学校で「オカマっぽい」という理由で毎日、いじめに遭っています。サブタイトルの「リトル」はシャロンのあだ名で、「チビ」という意味です。この映画、意外と他の人種による黒人に対する差別はでてこないんですよ。黒人しかいない町だから。そこに現れるのが近所に住む男、フアンです。
出典:IMDb
フアンは怯えるシャロンを安心させ、食事を摂らせ、我が子のように可愛がります。
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シャロンを海に連れていき、泳ぎを教えるフアン。「泳ぎを教える」というのはわかりやすく「生き方を教える」シーンですよね。
ここでフアンは重要なセリフを言います。” You gotta decide for yourself who you’re going to be. Can’t let nobody make that decision for you.”自分の生き方は自分で決めろ、誰かに決められるな、と。
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そして学校では仲間はずれのシャロンですが、ただ一人、心を許しあう友人ができました。ケヴィンです。
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映画は果てしなく美しい映像で綴られます。どこまでも青い青。元になった戯曲のタイトル、”In Moonlight Black Boys Look Blue”のとおり、月明かりの下で黒人の肌が青く輝きます。
資料を読むと、カラーリストっていう仕事がありまして、なんとこの映画、撮影した後にデジタルで青に加工してるんですね。黒い肌も青い光が反射しているように処理している。そもそもトップカットから青い車で始まるんですが、映画自体の「ルック」、つまり見え方のアートディレクションがきっちりされているんですね。
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ですが、物語は常に不穏です。シャロンの貧しい母親は麻薬中毒で、しかもあのフアンが彼女にドラッグを売りつけていた張本人だったのです。
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さて、ここまででもう、普通なら一本の映画として十分に良い感じです。美しい映像のなかで繰り広げられる、黒人コミュニティの真の姿、貧困、ドラッグ問題、母親の育児放棄、少年同士の友情、そしてドラッグの売人だが親代わり・フアンの矛盾する人物像…これらをどんどん掘り下げるんだろうな、と予備知識のなかった僕は思っていました。
まぁまぁいい映画やん? マハーシャラ・アリの演技は慈愛に満ちて素晴らしいし、アカデミー賞助演男優賞も納得です。この調子この調子。
ところが、あらまぁ、ここで映画はぶった切られます。