• MV_1120x330
  • MV_1120x330

ブックデザインで大切なこと【連載】広告代理店の現役アートディレクターが語る

中村征士 中村征士


LoadingMY CLIP

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

週に一本、1500文字のコラムを書くことを半年ほど続けてきました。締め切りと文字数を設定されて定期的に文章を書いたことなんてなかったので、始めは苦しみながら書いていました。文字だけで思っていることを伝えるということが想像よりも大変だということを思い知らされています。

インプットしないと、アウトプットもできない。なので最近は、本屋で気になった本をみつけてはパラパラとめくって、どんな文章が分かりやすくて楽しく読めるのかをチェックしています。

本職はグラフィックデザインなので、棚の中や平積みされたスペースから自分のことをアピールするブックデザインを眺めているだけでも、相当楽しかったりもします。きっと売り上げにも関わっているのだろうな。ということで今日は、本とデザインの関係について書いてみようと思います。

本づくりは1人の人間を生み出すこと

もし、本の装丁をお願いされたら僕ならばどうアプローチするか? を考えてみました。

僕は、本を1人の人間のように捉えます。本は、中身と外見がある1人の人間のようだと思うからです。文章というストーリーを持つ裸の人間に、カバーデザインという名の服を着せる、と考えてみるのです。

まず、装丁、ブックデザインをする、ということであれば表紙と裏表紙のデザインのことを思い浮かべるでしょう。でも本のメインは「文章」、作家さんが伝えたいテーマとストーリーです。

だから僕は表紙のことを考えるのは後回しにします。まずは作家さんが書いた文章をどのような気分で伝えれば一番いい状態で読者に伝わるか、そこから組み立てます。作家は、いわばその本のお母さんです。お母さんが自分の子どもをどのように世の中に出すかをまず相談します。

人間でも、ファッションとか外見はとっても着飾っているのに中身に気を使っていない人を見ると、なんだかガッカリしてしまいますよね。人間も本も中身が大切なのです。

フォント選びで伝わる温度感が変わる

文章が人の中身を表現するならば、本文のフォント選びや文字の組み方で、その人の口調と話すスピード感なんかを表現することができます。冷静な人ならば細くて硬めの明朝系、優しい人な柔らかめのもったりした明朝系。1ページに印刷される文字数が少なければスピーディーに読めるので早口に感じますし、逆にぎっちり詰まって1ページが文字で真っ黒なら、じっくりどっしりした口調に感じるでしょう。

その本をどんな人に設定するのかを先に決めてもいいかもしれません。芸能人に例えてみたりして、草刈正雄さんのような本にするなら、渋いけれど華があってユーモアがあって少しエロい雰囲気に仕上がるでしょう。草刈正雄さん自身、着ている服もきっとダークなジャケットなので、カバーデザインもそうなっていくでしょう。

表紙はその本の顔ですが

いよいよデザインのメインとなる表紙です。タイトルを大きく見せるのか、魅力的な写真を使うのか、イラストにするのか、切り口と手法の組み合わせは無限にあります。ただ、迷うことはそんなにないと思います。なぜなら、すでに1人の人間としてどのように世の中に出すかを色々考えているので、かなり選択の幅が狭まっているはずなのです。その幅からはみ出ると、ちぐはぐなことになってしまいます。

まとめ

ブックデザインというと、どうしても表紙などのカバーをどうするかと考えがちなのですが、本をつくることを“1人の人間を生み出すこと”と考えてみると、本文の見せ方が意外と大切だと僕は思います。人間だって、外見も大事ですが一番大切なのは中身ですからね。本というメディアは、時間をかけて読者との関係をつくります。広告とは少し違うけれど、ブランディングには少し似ていますね。1人の人間として魅力的であれば、読者にも長く愛されますし、人にも紹介したくなるでしょう。

作家さんが伝えたいことの本質をどう伝えたらいいか。それは、本をデザインするときに、1人の人間として捉えるのがいいのではないかと思っています。

街角のクリエイティブ ロゴ


  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP