ナルシストを極めれば恋人など不要なのでは?

上田啓太 上田啓太


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とにかく世間じゃ恋人の有無が問題なのである。

恋人がいるとかいないとか、付き合ったとか別れたとか、浮気されたとかヨリを戻したとか大変なのである。恋人がいない人間は肩身が狭いのである。

しかし私は解決法を思いついたのである。ナルシストを極めればいいのである。自己愛を徹底すれば、恋人など不要になるのである。

考えてみればよいのである。恋人たちはお互いをウットリと見つめる。しかしナルシストは鏡を見てウットリしている。自分で自分に恋をしている。鏡を見つめるだけで幸せになっている。これは恋愛の自給自足ではないのか!

興奮してすまない。しかし私はとうとう真実を発見したのである。自分を恋人にすればよかったのである。悩む必要などなかったのである。鏡の中に出会いはあったのである。かくして恋愛の諸問題は解決するのである。

この文章は、みなさんがナルシストを極めて恋人を不要にするための手引きである。

告白

まずはさっさと自分自身に告白することである。これは鏡の前で言えばよい。そしてすぐにOKを出してもいいのだが、ここはやはり恋の駆け引きを楽しみたいところだ。自分の告白にすぐには答えず、焦らしてみたりするのである。

「俺、俺のことが好きだよ」

 鏡の前で勇気を出してつぶやいた後、自分で答えるのである。

「ごめん、すこし考えさせて・・・」

もちろん俺だって本当は俺のことが好きなのである。しかしすぐにOKすることで俺が俺に軽い俺だと思われるのが俺は嫌なのである。だからあえて焦らしてから、一週間後に鏡の前に立つのである。

「付き合お?」

「うん」

自分の身体を抱き締めておけばよい。

秘密

しばらくのあいだ、俺が俺と付き合っていることは周囲には内緒である。秘密の恋愛を楽しむわけである。そしてある日、信頼できる同僚にだけ打ち明ければよい。

「じつは俺、同棲中なんだよね、俺と・・・」

もちろん、こんなものは単なる一人暮らしである。しかしそんなふうに自分でツッコミを入れてしまうとナルシストを極めることはできない。ナルシストとはツッコミ不在の精神なのである。俺は俺と同棲している。みんなには内緒だ。しかし同期のお前にだけは話しておきたかった。真顔で打ち明ければ、同僚は「そ、そっか・・・」としか言えなくなるのである。

「結婚も考えてるんだ」

真剣な顔で付け足しておけばよい。

同棲

ということで、恥ずかしながら俺は俺と同棲中なのである。洗面所のコップには歯ブラシが二本、俺の歯ブラシと俺の歯ブラシ、タンスのなかには色違いのパジャマ、俺のパジャマと俺のパジャマ、俺は俺のために鼻唄まじりの弁当づくり、自室の机には俺の写真、スマホの待受も俺の写真、仕事に疲れた時や上司に怒られた時はこれを見る。

「辛い仕事だけど、俺のことを思うと頑張れるなあ・・・」

そんなある日の昼休み、同僚たちが盛り上がっている。一人の男が周囲の男に弁当箱の中身を見せている。

「実はこれ、彼女が作ってくれたんですよ。ノロケすいません!」

すかさず負けじと言えばよい。

「実はこの弁当、俺が俺のために作ってくれたんですよ! ノロケすいません!」

こうして、周囲の人間は人生ではじめて1ミリもうらやましくないノロケを体験するんだが、むろんナルシストは気にしない。自分の手作り弁当を自分でほおばりながら、「俺の手料理はおいしいなあ・・・」と御満悦なのである。

「もしかして隠し味は“愛”かな?」

「オイオ~イ!」

周囲には誰もいないのである。

求婚

とうとう自分と結婚する日がやって来る。鏡に映る自分に言うのである。

「毎朝、俺の味噌汁を作ってくれないか?」

むろん、こんなもんは単なる自炊である。しかし鏡にむかって静かにうなずくのである。俺はずっと俺と結婚したいと思っていた。しかし言い出せなかった。だから俺が俺に俺と結婚したいと言ってくれたことが俺は本当に嬉しい。そう言うと、俺は俺のために必死で働いて買った指輪を俺の薬指に通してあげるのである。

「ぴったりだ」

当たり前だ。

両親

そして俺は俺といっしょに俺の両親のもとに結婚の挨拶に行くのである。

「お父さんお母さん、息子さんを僕にください!」

両親の反応は「おまえが息子じゃん」である。「おまえがおまえをほしがってるじゃん」である。「しばらく見ないうちに息子が発狂してるじゃん」である。しかしこちらは本気なのである。今にも土下座しそうな勢いなのである。畳に両手を付けているのである。父親を「お義父さん」と呼んでいるのである。

かくして両親の脳裏をよぎるのは「子育て失敗」の文字なんだが、もちろんナルシストが極まっているので他人の意見など耳に入らない。両親の困惑を押し切って自分との結婚を決めるのである。

結婚式

俺と俺の結婚式では新郎の俺、新婦の俺、親族の俺、友人の俺が集まり、俺の手紙に俺が泣き、俺たちに冷やかされながら俺は俺とキスをして、健やかなる時も病める時も俺は俺を愛しますかと俺に尋ねられて俺と俺は堂々と誓いますと答え、俺の投げたブーケを俺がキャッチする。

結婚式の二次会には俺を筆頭に俺や俺や俺が参加し、いつも出会いがないと愚痴って俺を心配させていた親友の俺が、二次会で会場にあった鏡を見てキュンとする。

「あっ、この人と結婚するかも・・・」

こうして、またしてもカップルが誕生してしまう。俺と俺どころか、俺と俺のカップルまで誕生してしまうのである。

ここまでいけばナルシストの極みであり、もはや恋人どころか家族も友人も親族も人類全般もなんにもいらず、あなたは自分一人で生涯幸福な人生を送ることができる。

健闘を祈る。
 
 
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