フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ【連載】田中泰延のエンタメ新党

田中泰延 田中泰延


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となりのトトロが観たくなる。

映画「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」

 

連載第3回となりました、田中泰延のエンタメ新党。

ふだん広告代理店でテレビCMのプランナー・コピーライターをしている僕が、映画や音楽、本などのエンタテインメントを紹介していくというこの連載、編集部がつけたひどいタイトルにもだんだん慣れてきました。もうどうにでもしてくれ。

連載も3回目となりましたが、ここまで読んでくださった皆様から「ネタバレを通り越した、ほとんど一本観たような文章で、ひどい」という賛辞をたくさん頂戴しました。ありがとうございます。
 

尊敬する映画解説者に、大阪を中心に活躍するラジオパーソナリティの浜村淳さんがいます。

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出典:yaplog!

浜村さんは、ご自身のラジオ番組「ありがとう浜村淳です」の毎週土曜の映画紹介コーナーで、ミステリー映画だろうがサスペンス映画だろうが絶対に犯人もトリックも結末も全部言ってしまうという壮絶な解説スタイルを貫かれています。

「さあ、いよいよ最後、ここで観ているお客さん、ビックリします! なんとなんと、真犯人はエリック! お客さんが露ほども疑わなかった義理の弟のエリックだった! しかもエリックが口にする謎の言葉、「バラのトゲ」は殺人の合い言葉だった! すべての謎は解けたのです〜〜! バンバンバン! 拳銃の音が鳴り響き、哀れエリックを射殺し一件落着、立ち去る主人公ロバート! ゆっくりゆっくり小さくなっていくトレンチコートの背中に鳴り響く主題歌、殺しのセレナーデ…」

浜村さん、浜村さん、ほんま「ありがとう浜村淳です」とはこのことですわ。もう僕その映画観に行かんでもええですわ。ラジオなのにエンドロールが見えましたわ。

そんな尊敬する解説スタイルを次代に受け継ぎ頑張る所存です。なので、この連載は、どっちかというと観てから読んでくださった方が話のタネになる、そんな内容です。
 

「かならず自腹で払い、いいたいことを言う」をこの連載のルールにしていますが、第1回の「フォックスキャッチャー」も第2回の「アメリカン・スナイパー」も、「自腹で払ってよかった!」「1800円は安かった!」「いいもの観た!」という気持ちでいっぱいでした。

しかし、ついにそうも言ってられない映画が僕の前に立ちはだかりました。今回取り上げるのは、映画「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」。R15指定です。オトナの映画です。

「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」予告編

主演のアナことアナスタシア・スティール役にはダコタ・ジョンソン。僕あんまり知らない女優さんですが、何も知らない大学生にも、成熟した大人の女にも見える、言い換えると、シーンによってブサイクに見えたり綺麗に見えたりで目が離せません。この人でこの映画が持ってるようなとこあります。


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出典:「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」オフィシャルサイト

そのアナと出会うのが大富豪、クリスチャン・グレイ。演じるのはジェイミー・ドーナン。


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出典:「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」オフィシャルサイト

すごいイケメンという役どころですが、ピンと来んわ〜。この人も知らん役者やわー。ジェイミー・ドーナン? ドーナンてドーナンよ? 女性からみたらカッコいいのでしょうか。まぁ腹筋は割れてますけど。
 

さて、この「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」、全世界で1億部も売れたという官能恋愛小説の映画化です。1億人といえば日本の人口レベルですよ! ですからさぞお客さんでいっぱいだろう、映画館は食糧難になるだろうと考え、じゃがりこ3パックを携行して決死の覚悟で映画館に入ったところ、


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誰もいません。完全に貸し切りです。もし僕が行かなかったら上映は中止でしたか? 電気代空調代が節約できて地球環境に貢献してエコマークとかもらえたはずなのに残念です。

だれかおひとりさまの女の子でもフラッと入ってこないか? 官能SM恋愛映画ですよ? 僕もひとり、そっちもひとりでこんなR15指定の映画を観たら、映画館を出たらすぐに「おひとりですか、僕もひとりなんですよ。奇遇だなぁ」「奇遇? 東北から出土する縄文期の泥人形ですね」「それは土偶ですね。それはそうと、こんな映画を観るなんてSMに興味あるんですね」「ええ」って結ばれたり結んだり縛ったりほどいたりできるはずです。
 

ところが待てど暮らせど誰も来ない。ついに上映が始まりました。まぁいいか。この映画がそんなにエロいんであれば、好都合です。本来男がエロい映像を見るのはひとりの時です。

お話は女子大生アナが、27歳の大富豪クリスチャン・グレイのところに学生新聞の取材でインタビューに訪れるところから始まります。クリスチャンはIT系のベンチャー企業を一代で大企業にしたCEOらしく「私は人を支配するのが好きだ」みたいなことを言います。

で、話しているうちに、アナは最初から王子様然としたクリスチャンに惹かれまくるし、クリスチャンもウブなアナに興味持ちまくりなんですよ。のっけから思いっきり少女マンガなんですよ! それもパンをくわえて走っていたらイケメン転校生とぶつかるレベル。ここからもう、「笑ったら負け」レベルのベタさです。観客一人ですから我慢する必要もないんですけど、映写技師に笑い声を聞かれたらどうしようと思って必死でこらえていました。
 

そもそも、映画には「三人称の哀しみ」があるんです。小説なら、主人公の内面を叙述して、「私は、顔色は変えずに内心こう思った」みたいなことを書けるわけですが、ナレーションのない、普通の三人称視点で描く映画では、好きになったら好きになった顔を撮影して、好きになられた相手の顔とカットを切り返して編集してみせる、というわかりやすくしなければならない哀しみがあるんです。それが稚拙だとやはり、笑いにつながっちゃうんですよね。

金持ちのクリスチャンは、どこへでも迎えにいくし、ヘリコプターは乗せてあげるし、優しいんですよ。でもうアナは目が♡(死語)で、普通の恋物語が始まるのかと思いきや、ここからがこの映画。突然クリスチャンは「契約」という言葉を持ち出します。その契約というのは、「僕は恋愛は一切したくない。SMにしか興味ない。僕はドSだ。人を支配したい。お前はその従属者になるサインをしろ。服や家や車は高いもん買うたるさかいに」ということなんですね。
 

ここで、クリスチャンがすごいジャガーチェンジ(豹変)して恐ろしい人格に変わったんなら、この映画、なかなかに見所あると思うんですけど、相変わらず優しいんですよ。普通なんですよ。腰が引けてるんですよ。
 

アナのほうはといえば、そう簡単にサインはしないで、あれこれあれこれ文句をつけて、相手の譲歩を引き出します。なかなかのやり手です。ていうか、観客(1人)は、このあたりのダラダラした感じでイライラしてじゃがりこを食べ始めます。食べきります。1箱目です。僕がマンガに出てくる外人の悪役キャラだったらカタカナで「ヘイ サッサトハナシヲススメロ」と叫ぶところです。読みにくいです。
 

ここまで読んで、まだこの映画を観てない人はコメディだと思いませんか? でも違うんですよ! マジなんですよ! それがこの映画の恐ろしいところなんですよ。
 

アナは全然M女になる気がありません。住まわしてもらってる豪華マンションでアナがローリング・ストーンズの『ビースト・オブ・バーデン』を歌うシーンまであります。“♪わたしはあなたの家畜じゃないの ただあなたに愛されたいの”って、じゃあ人の用意してくれた家に住むなよ。とうとうクリスチャンは根負けして、アナとSMじゃない普通の男女の行為をやらされます。そんなんしたくないって最初から言うとるやろ。しかもアナは、実は私は処女です、っていうじゃないですか。
 

どSをやらせてくれ、と頼み続ける男をじらし続けるアナちゃん、お前がどSやろ。これではアナと雪の女王ならぬ、アナはSMの女王 です。
 

処女レベルの交渉力じゃないですよ。お前はコンサルの社員か? どうしてこんなにアナをしたたかな人間に描いたんでしょうか。それは、この『少女マンガ』を観に来るお客さん、メインターゲット的なセグメント感のあるカスタマー層が、女性だからです。これぐらい自分がトクしかしないように描かないと、女の人はイヤなのです。感情移入しないのです。離婚する時のことを考えてください。ダルビッシュのことも考えてください。俺の物は俺の物、お前の物も俺の物、というのは女の人のほうなのです。女はみんなジャイアンなんです。このあたりで観客(1人)は「俺と関係ない映画だ…」ということに気づいてじゃがりこの封を開けます。(2箱目)

しかしまぁ、アナも彼のことを理解したいという気持ちはあるんでしょうし、すでに贈与の度合いがすごすぎて、見ている僕が税務署に密告したくなるほどになってきたので、いよいよ契約書にサイン! クリスチャンの秘密のSM部屋へ連れて行かれます。


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出典:「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」予告篇

さぁここからは納得ずくで、めくるめくSMの世界や! 花と蛇や! 杉本彩や! 小向美奈子や! 谷ナオミや! と思ったら

ぜんぜんぬるいわ!!

 

ええかげんにせいよ。ソフトタッチにもほどがある。お前らソフト99か。ガラコか。レインXか。クリスチャン、口ほどにもないです。変態でも何でもないです。相手の人格を完全に否定してモノとして扱い、扱われることにこそ関係性のゲームがあるのがSMというものではないでしょうか。やったことないんで偉そうなこと言えないんですけど。だからこそ究極のモノ化である殺害の一歩手前で遊ぶ危険性、人格を否定する発言、堪え難い痛み、恥の概念、屈辱感といったものを導入する。そのための器具であり、拘束であり、言葉責めなのに、なーんにも機能してません。ふつうのほのぼのセクロスにちょっと紐を巻いただけの行為が延々展開されます。お前らほのぼのローン、ほのぼのレイプか。女性監督ということですが、女性の本物の被虐願望をなめてないですか? それっぽい小道具が置いてあったり、紐を巻いたらSMですか?
 

そもそも、巨大企業の指導者がSって、アホか? 現実社会で偉いからこそ、そこではMでないとダメだろう。前半のアナがSっぽくじらして金品巻き上げるシーンの方がよほどSMっぽくて、懐かしく思えてきました。もう画面でいくらアヘアヘ言われても僕はじゃがりこですよ。(3箱目)
 

しかも、映倫がR18ではなく、R15指定にとどめたせいで、プレイ中の2人の下半身には黒い丸いボカシがずっと入り続けます。これがもう、「まっくろくろすけ」にしか見えないんですよ!

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出典:Amazon

この映画を見たあとシネコンの隣のシアターで「となりのトトロ」をやっていたら全員吸い込まれるでしょう。それぐらいまっくろくろすけが画面いっぱいに躍動しています。くろすけのいないR18版も最近公開されたらしいので、ジブリファンでなければそちらをお勧めします。
 

だいたいですね、「僕は人を支配したいんだ」と言って巨大企業を作り上げて利潤を得たクリスチャン、資本主義社会の中で富を蓄積したということは、それ自体が支配を可能にしているわけで、他人の人生や命運をおおいに握っているという設定な訳ですよ。だからさらにSMで人を支配したいという欲望に根拠が感じられないんですよ。しかも、ぜんぜん仕事しているように見えないんですよ! なんの仕事しとるねん。お前は生まれつきの王子様か。こういう方法で富を得て、その結果美女をモノとして扱うことが可能になるんだ、という支配の本質、男性はその理屈と筋道を知りたいのです。それをちゃんと描いたのがディカプリオ主演の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」ですね。

たいして、女性は、すでに男性の富が出来上がっている状態に興味があって、そこからロマンスが始まるわけで、クリスチャンが何をやってる人なのか知りたくもないんですよ。はじめに、「あなたはアフリカを支援していますね?」「ただの金儲けだ」という会話もあるのに。女性にとっては汚い仕事で成功した大富豪と、生まれついての高貴で富裕な王子様は同じものである、という衝撃の事実があきらかになるわけですよ。この描き方だと。
 

途中、クリスチャンがなぜ俺は歪んだのか、みたいな親に関するトラウマ話を始めてみたりもしますが、ほとんど車で夜景を見せに連れて行った女に「人生ってさ」って語り始める男と同じレベルのたわ言なんで、僕は聞く耳ありません。じゃがりこも残り少ないですし。
 

思春期のクリスチャンを性的おもちゃとして支配した『ミセス・ロビンソン』の話もでてきますが、これ、ダスティン・ホフマン主演の映画「卒業」からの引用ですね。同じように若者がオバサンに犯される話です。サイモン&ガーファンクルも歌にしました。それを持ってくるのは多少の教養かと思いましたが、ちょっと引用しましたよ、昔の映画知ってるかな? レベルにしか機能してません。
 

この映画、長い長い。2時間あります。でも、ラストはそんなに悪くないと思ったんですよ。とりあえず契約して、M女をやってみたアナですが、結局気に食わない。尻をぶたれている最中に逆ギレします。そりゃそうでしょう。前半で見たようにアンタSなんだから(笑)で、あっさり出て行って映画は終わる。え? これで終わり? え? みたいな感じではありますが、僕、わりと感心したんです。少なくとも、ヌルい少女マンガ設定、ヌルいニセSM風味はあるにしても、愛の始まりと終わりは描けているな、と。
 

「かわいいな」「イケメンだわ」「物わかり良さそうだな」「カネ持ってそうだわ」「やさしそう」「ヤリたいなあ」出会った男女の、このような相互の観察と願望を総称して人間社会では「あなたのことをもっと知りたい」と呼ぶルールになっているのですが、すくなくともその始まりは丁寧に描いていた。で、そうやってくっついた男女がお互いを知り、かつ理解できないところがあるのを知り、それでも譲歩しあうが、限界がきたら分解する、これが別れであって、それは一瞬の崩壊です。だから、2時間ダラダラしていたけれども、ばっさり突然のエンドロールは鮮やかだと。
 

と感心してたら違うんですって! 続編があるんですって! しかも「2」と「3」が! いい加減にせえよ。 温厚な私でも怒るぞ。もう2時間、じゃがりこ3箱分オレはたった一人でがんばった。いつもはこの連載のために真っ暗闇で丁寧に手帳にメモを取るんだが、まっくろくろすけあたりで諦めた。でもがんばった。
 

「2」だと? もちろん去っていったアナが善良な心のロボットに改造されて戻ってきて最後は溶鉱炉に親指たてて沈むんだろうな?

「3」だと? もちろんクリスチャンは実は姫は妹だったことを知って新デススターを破壊し、最後は小熊みたいな部族と踊って終わるんだろうな?
 

そんなこんなで、おとぎ話のような設定、ソフトで甘美なSMシーン、今後なんとなく掘り下げられるんだろうトラウマ話の行き着く先を追い求めて、わたくし、「2」も「3」も必ず観にいくことをここに誓います。良くなっていく可能性も捨てきれませんし。そこから振り返ってこの第一作目を思い返すと、「なかなか導入としてはよかった」になるかもしれません。じゃがりこも6箱買いました。

 

参考までに、この映画をみてイライラした人のために、男と女のSM的な関係性、閉じられた2人の官能性、バッサリ終わる鮮やかさ、などをもうちょっと上手に描いた映画の題名だけ挙げておきますね。

「ラスト・タンゴ・イン・パリ」「愛のコリーダ」「ナインハーフ」
「ベティ・ブルー」「プライドと偏見」

「2」や「3」を観るときにはこれらの映画の話もしようと思います。

映画「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」公式サイト

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