もはや信頼感すらある、ウェス・アンダーソンの「反復」
ウェス・アンダーソンの刻印と言えば、真っ先に想起するのがあの「横移動」だということに異論を挟む者はいないだろう。
その横移動は何度も「反復」される。この反復はカメラワークだけではない。台詞や音楽もまた、幾度となく反復されるのが特徴だ。
本作で初めて画面が左から右に平行移動するとき、私たちはこの几帳面な移動が何度も繰り返されることを期待する。
出典:IMDb
犬たちがはじめて言葉を発するタイミングは、まさに「ファンタスティック Mr.FOX」と同じく、パペットが人形以上の存在になるあの瞬間は、本作でも反復される。
「ファンタスティック Mr.FOX」で初めて登場する男女、つまりミスター・フォクシー・フォックス(ジョージ・クルーニー)と、ミセス・フェリシティー・フォックス(メリル・ストリープ)が会話をした小高い丘は、うず高く積まれたゴミの山に代わっている。
その頂には元ショー・ドッグのナツメグ(スカーレット・ヨハンソン)が、いかにも高嶺の花といった雰囲気をたたえ、5匹の前に現れる。そして、彼女は再び必ず「高い位置から」登場することになるだろうという反復への期待は、決して裏切られることがない。
出典:IMDb
極めつけは告白のタイミングである。スポッツがチーフ(ブライアン・クランストン)に告白するあの瞬間、ミセス・フォックスが「妊娠しちゃったの」とミスター・フォックスに伝えたシーンが鮮やかに蘇り、過去作からの「間」が反復されていることに驚かされる。
さらに付け加えるならば、「ファンタスティック Mr.FOX」で選曲された「デイビー・クロケットのバラード」や「英雄と悪漢」、「ストリート・ファイティング・マン」は、本作では「アイ・ウォント・ハート・ユー」、「東京シューシャインボーイ」、そして「勘兵衛と勝四郎~菊千代のマンボ」へと、選曲は違えど、ここでもやはり繰り返しが表出する。
「犬ヶ島」はまるで、ウェス・アンダーソンのカメラのように、「ファンタスティック Mr.FOX」から平行移動してきたようだ。
幾度も仕掛けられた美しい反復と、言葉や音楽のリフレイン。ウェス・アンダーソンの律儀なまでの形式主義には、信頼感すら覚えてしまう。