• MV_1120x330
  • MV_1120x330

芥川賞・直木賞を受賞してないけどオススメの小説3選

岡田麻沙 岡田麻沙


LoadingMY CLIP

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

宮内悠介『ディレイ・エフェクト』(2018)文藝春秋

第158回芥川賞候補作。時間系のSFだ。今の東京に重なって、戦時中の東京が立ち現れる。初めはおぼろに。でもそのうちに、くっきりと、かつての東京がフェードインしてくる。

宮内悠介作品の魅力である「設定の面白さ」と「細部のリアリティ」が爆発している。「政府は初動でこの現象を認めなかった」という、いかにもありそうなエピソードや、学者や知識人の右往左往ぶりまで、描写に抜かりがない。
 

そのうちに特高警察の拷問見学ツアーなる人の悪い企画が中国の旅行会社によって立ち上げられ、(中略)
その旅行会社はというと、まもなく国際社会の批判を受け、対策として謝罪しているのか喧嘩を売っているのかわからぬ声明を出し、いっそうの批判を浴びた。一歩遅れて旅行会社を批判した政権与党は、負の歴史を隠す歴史修正主義であるとあらぬ方向から批判を受け、これまた謝罪しているのか喧嘩を売っているのかわからぬ声明を出し、いっそうの批判を浴びた。

引用:宮内悠介『ディレイ・エフェクト』、文学ムック『たべるのがおそい』収録、p.13

SFの面白さの一端は風刺センスが担う、と実感出来る一節だ。世界観の説明は、詩的な趣を帯びる。現在の東京に過去の東京が重なる現象は「ディレイ・エフェクト」と呼ばれるようになる。音楽の「ディレイ」という山びこ現象になぞらえられているらしい。
 

「すると今回の現象は、四次元方向に山が一つあるようなものか」
(中略)
「あるいは、三十八光年ぐらい離れた遠くの宇宙に山があるのかもしれません」
「あるいはな」

引用:宮内悠介『ディレイ・エフェクト』、文学ムック『たべるのがおそい』収録、p.19

近い将来に東京大空襲を目の当たりにする、という状況を前にして、こんな会話が飛び交うのである。「おしゃれすぎるだろ・・・」と警戒してしまうが、題材の重さと好バランスなのか、胃もたれしない。どころか、救いとなっている。

一つの場所に複数の物語が存在するとき、我々は生身の人間に対して、より切々とした感情を抱くことがある。「本作が芥川賞を受賞した」という、もう一つの現実を重ね合わせながら、まんじりともせず、何度も読みたい。

 

まとめ

以上、芥川賞・直木賞の候補となった作品の中からオススメの3冊を紹介した。愉快な新刊を見繕う参考にしていただければ幸いだ。

 

街角のクリエイティブ ロゴ


  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP