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別れのシーンが印象的な小説3選

岡田麻沙 岡田麻沙


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啓蟄けいちつが過ぎ、季節はすっかり春だ。もうじき4月がやってくる。出会いと別れの季節である。

そういうわけで、別れのシーンが印象的な小説を3冊集めてみた。個性豊かな離別が奏でる悲喜こもごもを、堪能して欲しい。

絲山秋子『イッツ・オンリー・トーク』(2006)文藝春秋

芥川賞作家・絲山秋子のデビュー作。3ページから5ページほどの小さな節が連なる形で「私」の日々が綴られる。イッツ・オンリー・トーク、全てはむだ話さ、と歌い飛ばす乾いた口調が印象的な作品だ。

本間を引き止めて出したほうじ茶がひりひりするような蛍光灯の光の下で冷めようとしている。
「寝る?」
私は明るい声で聞いた。自分の力で全てを解決しようと思い込んだ。
引用:絲山秋子『イッツ・オンリー・トーク』(2006)文藝春秋、p.19

諦念がびったりとこびりついた「私」の前に、他者はいつも、埋めようのない隙間と共に現れる。

考え込んでみても、次に本間に会えない理由がどうしても納得できなかった。結局、私のようなお安い隙間家具では嫌だということだろうか。それを自覚してしまっている時点で駄目なのか。私はクーリングオフされた通信販売の商品だった。私ではだめだった。
引用:絲山秋子『イッツ・オンリー・トーク』(2006)文藝春秋、p.23

人と人とがふれあう瞬間には、多くの場合、暗黙のうちに演技性が求められる。そうした「嘘」を全て見つめ断罪してしまう「私」にとり、他者はどうあっても届かぬ存在だ。そして、他者にとっての自分は不足した存在であり続ける。別れの瞬間に寂しさよりも安堵を覚えてしまうタイプの人には、本書を強く勧めたい。

 

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