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2017年に映画化された小説3選

岡田麻沙 岡田麻沙


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三島由紀夫『美しい星』(2003)新潮社

2017年5月26日、三島由紀夫によるトンデモSF小説を映画化した「美しい星」が公開された。監督は吉田大八、主演はリリー・フランキー。基本的な小説の構造は残しつつ、時代設定や人物の職業について大幅な変更が加えられた映画作品では、「えっ、あの人をこう撮るのか!」という驚きと共にキレッキレの世界観を味わえる。

公式サイトは「小説と映画、ここが違う」と題したページを設け、読んだ人も読んでない人も、観た人も観ていない人も、比較そのものを楽しめるコンテンツを提供している。

小説では「プレイボーイの大学生」であった長男・一雄(水星人)は映画の中で「フリーター」に、「孤高の美しさを持つ女子学生」だった妹・暁子(金星人)は「美人だが友達のいない女子大生」に変換される。ダメさのエッセンスを数滴たらされたキャラクターたちは親近感を抱かせ、小説の突き抜け方とはまた違ったズレっぷりで笑いを誘う。

いっぽう、原作の小説『美しい星』は、映画と比べると読者を突き放した内容といえる。地球人の命を昆虫レベルの軽さで扱うことによって、この星の未来という大きなテーマを考察していく思考実験的エンタメ小説。ぶっとんでいる。本小説の見せ場は、なんといっても会話。終盤で繰り広げられる重一郎と黒木らの会話は文庫版にして実に68ページに渡る。これがめっぽう面白い。異星人である彼らは、「人間は愚かだ」「いや人間にはまだ見どころがある」と喧々諤々けんけんがくがくやりつづける。さすが劇作家でもある三島由紀夫、やたらと盛り上げてくる。以下は、重一郎が人間の美しさを訴えるシーンだ。

「(前略)・・・人間とは愛すべき生物で、昨夜のやかましいパーティーへの抗議を申し込みに、隣家へ出かけた男が、いざ怒りのベルを押す前に、玄関さきの雨後の繁みに小さな可愛らしい蝸牛かたつむりをみつけ、それをみつけたことで幸福になり、とうとう抗議をやめてその場から帰ってきてしまう、などということをやりかねない生物だ。又、散歩の道すがら、ふと花の鉢を買ってしまい・・・」
「花の鉢だって! 花の鉢だって! それはきっとシクラメンにちがいない」
 と栗田は椅子から腰を浮かし、色蒼ざめて、血走る目を重一郎へ向けて叫んだ。
引用:三島由紀夫『美しい星』(2003)新潮社、p.294

最高である
「それはきっとシクラメンにちがいない」と、血走った目の男が半立ちになる。これ以上に面白い話の腰の折り方が、あるだろうか。つまらない長話の途中、半立ちになって叫んでみたくはならないか。「それはきっとシクラメンにちがいない」と。

他にも、「プリティ・リトル・スケルトン」とか、「女の粘膜にうつつを抜かし」、「火星から来た宦官かんがんめ!」など、とにかく名言の宝庫。卓抜した会話劇を読んで、地球の外までぶっとぼう。

 

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