新しい年になった。2017年はどんな1年だっただろうか。昨年公開された映画の原作となった小説を3冊紹介するので、あれやこれやを思い出しながら読んでみてくれたら嬉しい。
島尾ミホ『海辺の生と死』(1987)中央公論社
2017年7月29日、越川道夫監督の映画「海辺の生と死」が公開された。舞台は太平洋戦争末期の奄美群島・加計呂麻島。島の娘と、島に駐屯する特攻隊の青年とが繰り広げる切ない恋の物語である。
原作は、島尾ミホによる短編だ。
「島尾ミホ」と聞けば、多くの読者がただちに思い浮かべるであろう小説が『死の棘』。夫・島尾敏夫の著であるこの夫婦譚は、「私」の浮気によって心を壊されてしまった妻・「ミホ」の様子を克明に記録したものである。その凄絶さは読者を震え上がらせ、初版刊行から40年が経った今でも「死の棘」で検索をすると「ミホやばい」「トシオもおかしい」「二人とももうやめろ」「うまく息ができない」「一周回って笑えてきた」など、実に臨場感あふれる感想を見つけ出すことができる。
『死の棘』映画化という恐ろしい事件から27年の時を経て、とうとう公開された「海辺の生と死」。時間軸としては『死の棘』で語られる日々よりもずっと前、二人が出会った頃の出来事だ。奄美の自然と満島ひかりの神話感あふれる演技に、ひたすら息を呑む。
原作もまた、透明感に満ちた小説である。『死の棘』における「ミホ」の発狂ぶりが脳裏に焼き付いていた私は、『海辺の生と死』を読み、その静けさにぶったまげた。
「こっちを先に読みたかった」
「いや、この後で『死の棘』を読んでいたら、きっと、立ち直れなかった・・・」
相反する感情が沸き起こる。
『死の棘』アナザーストーリーとして位置付けるだけではあまりにもったいない、