5.哭声/コクソン
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こんなに「怖い」映画を観たのは久しぶりだった。「哭声/コクソン」の怖さは、例えば子どもの頃に祖母や祖父から聞いた「あの山では夜になると妖怪が出るから入っちゃいけないよ」という驚かしや、その山を真っ暗闇の中で見たときに、ふと何かが動いたような、何かがこちらをじっと見つめているような感覚に襲われたときの、叫ぶというより心底ゾクッとする怖さに似ている。
その「怖さ」に更に濃い味付けを施したのが國村隼であることは言うまでもないが。國村隼がとにかく怖いということは、何度でも言っておきたい。マジで怖かった。
そして、舞台が韓国という近距離でありながらも確実に異国であるということ、都会ではなく田舎であるということで「なんとなく親近感は感じるのだけれども、どこか、何かが違う不気味さ」が増し、「よくわからない恐ろしさ」を加速させる。
この「よくわからない」というのが癖モノで、基本的な舞台設定のみならず、劇中で何度も繰り返されるどんでん返しと、土着信仰やキリスト教など、重層的なテーマが複雑怪奇に絡み合い「よくわからなさ」を蓄積させる。これがまた怖い。精神的な怖さ、肉体的な怖さ、音による怖さと、全てが詰まった作品は、単なるホラーの枠を軽々と超えている。
4.わたしは、ダニエル・ブレイク
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今年も社会保障に対しての問題提起や議論が多くあった。「わたしは、ダニエル・ブレイク」も国は違えど、イギリス北東部ニューカッスルを舞台に、援助を求めるシングルマザーや就労が難しい高齢者たちの前に立ちはだかる「制度」に鋭く切り込んだ。
本作はテーマこそ重たいものの、滅法面白くユーモアも効いている。つまり映画として非常によく出来ており、だからこそ「ここぞ」という場面は観ているこちらも本当にキツい。ネタバレになるので詳しくは言えないが、その「切羽詰まった行動」を見せつけられる瞬間はまさに、自身が心の中で抑圧していたものを見せられたという感じで、誰しも「彼等/彼女らの姿」は、もしかしたら明日の自分の姿であるかもしれないという現実を残酷なまでに突き付けてくる。
しかしながら、どんなに生活が苦しくとも人間としての尊厳を、ユーモアを失わない人間の素晴らしさや力強さ、当たり前だがつい忘れてしまいがちな人付き合いの大切さを教えてくれる作品でもあり、ある方向から観るならば心を芯から温めてくれさえもする。ダニエル・ブレイク役のデイヴ・ジョーンズの演技も素晴らしく、心底薦められる一本。
3.メッセージ
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2017年、ドゥニ・ヴィルヌーヴは「ブレードランナー2049」という大仕事をやってのけたわけであるが、その前に公開された「メッセージ」も、後世に語り継がれるべき作品であると思う。
原作「あなたの人生の物語」もまた傑作であったが、ドゥニ・ヴィルヌーヴは映像化は難しいであろう、とことん言葉を巡る、意地悪く言ってしまえば地味な話を見事に映画として昇華させた。
もちろん、ごっそり抜かれてしまったパートや、映画ならではのオリジナルストーリーがやや弱く、ご都合主義的であるといった点もあるが、緊迫する世界情勢や、言葉が通じる人類同士がいがみ合ってしまうという現実、それを打破する方法などは、映画ならではの表現として成功したとも考えられる。
地球に飛来したエイリアン、ヘプタポッドが描く表義文字をイチから作成したことや、あの静謐な宇宙船内部をセットで再現したという小ネタ満載な点も、裏話ながら重要で、何より言葉を費やしたいポイントは長くなるので以下表義文字で書くことにするが
これに尽きる。