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年末年始におすすめ!超長編小説4選

岡田麻沙 岡田麻沙


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長編小説というジャンルがある。もはや作者が何かにとり憑かれていたとしか思えぬほど延々と続く小説を読む、恐ろしいプレイのことである。本記事では「とにかく物理的に長い」タイプの超長編を2冊、そして「この内容でこの分量はどうかしている」系の小説を2冊とりあげる。
レッツ・プレイ。

※著者50音順

清岡卓行『マロニエの花が言った』(1999)新潮社

詩人であり小説家でもあった清岡卓行は、自身が37歳の時に刊行された処女詩集『氷った焔』によってデビューをした。シュールレアリスティックな言語感覚と肉体に対する絶え間ないまなざしが印象的なこの詩集には、「ああ きみに肉体があるとはふしぎだ」という有名な一節が登場する(作品名『石膏』)。

評論集『手の変幻』では、ミロのヴィーナスについて論じた評論『失われた両腕』が有名だ。他にも、絵画作品に描かれた女の手の表情を観察しまくる作品や、アンリ・コルピ監督のフランス映画『かくも長き不在』についてじっとり考察した『映像と心象』など、清岡卓行が「肉体のイメージ」に注ぐ熱量と厳しさは圧倒的である。

そんな彼が10年間をかけて書きあげた『マロニエの花が言った』は、パリで活躍する芸術家たちの交流を描いた大河小説だ。上巻・下巻を合わせて約1,200ページにもなる大作なのだが、本編の長さもさることながら、目を見張るべくは参考文献の多さ。「できるだけ少なく挙げた」という一覧を数えてみたら、303冊あった。1,200ページの本編に対して、参考文献が303冊。清岡卓行は、4ページを書くために1冊、読みこんでいる。

豊潤な資料に裏付けされた大戦の記録と、パリの描写。新たに訳されたシュールレアリスム詩の数々。読みどころは多々あるが、やはり、味わいたいのは文章の妙。これほどの分量でありながら、最初から最後まで清岡卓行の文章には隙がない。どのページを開いても、「ここ、いらないよね」と言えない。『マロニエの花が言った』は長いだけではなく、恐ろしい完成度を誇る大河小説である。この凍てついた河にダイブして、透明な文章の流れに震えたい。

 

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