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10年後、20年後に再び出会って感動した名著たち

加藤広大 加藤広大


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同じテーマで映画音楽について書いてきました本シリーズ、今回は「10年後、20年後に再び出会って感動した本」を題材に色々と書かせていただきます。

そんなわけで「本、何にしようかな」と選んでいたのですが、これがなかなか決まらない。ので、セレクトにあたって、以下のルールを設けることとしました。

・現在、家にあって手に取れる作品
(ちなみにKindle可)

・雑誌/漫画は禁止
(多すぎて収集がつかなくなるため)

・1著者1作品
(絞らないと延々と紹介し続ける可能性があるため)

・写真集は除く
(紹介したいけれど、これも多すぎるので)

邦山照彦『増補・アル中地獄(クライシス)―アルコール依存症の不思議なデフォルメ世界』

初っ端から読んでいるうちに部屋が酒臭くなるほどに強烈なドキュメントが登場です。なぜなら丁度目の前にあったから。

超ヘヴィー級のアル中患者であった著者自身の実体験から綴られるアル中の習性や思考回路は圧巻の一言で、とにかく「読み物」として面白い傑作です。

これがどのくらい面白いかと言えば、本書をツマミに酒が飲めるほどで、アル中が堕ちていく様子を比較的安全圏から「俺もまだまだだな」なんて思いながら読みつつ飲む酒の味はまさに背徳をリンスしたように格別。

この本が凄いのは、悲壮な話、エグい話も多いのですが、同じくらいアル中のトホホな話が散りばめられており、爆笑すらできるところです。巷間こうかん見聞きする「アル中特集」などは暗く、どんよりとしたイメージの作りが多いですが、本書はキャッチコピー通りの「アルコール依存症の不思議なデフォルメ世界」が繰り広げられます。

なかでも精神病院内で脳細胞が爆発し、院内中に吹き飛ぶ幻覚エピソードは必読の価値あり。下戸の人も飲ん兵衛も、ぜひご一読ください。

中島らも『今夜、すべてのバーで』

今しがた紹介した『増補・アル中地獄(クライシス)―アルコール依存症の不思議なデフォルメ世界』を引用していたのが、言わずと知れた中島らもの傑作小説『今夜、すべてのバーで』です。

アルコールに取り憑かれた男、小島容の日常と幻覚体験は、若いときには不明瞭でも十数年経ち、飲酒習慣が定着した今ならとても良くわかります。わかりすぎてちょっと困ります。

酒飲みの孤独、寂しさ、勝手さ、弱さ、くだらなさがコップに並々と注がれたような本書は、お酒を飲まない人にもぜひページをめくっていただきたい一作です。

ところで、私はいつも、この小説のラストシーンを読むと涙が止まらなくなってしまいます。なぜだかはわかりません。ただ、「今夜、すべてのバーで」行われているであろうそのシーンがハッキリと、スローモーションで目に浮かんでしまうのです。

町田康『実録・外道の条件』

理不尽をトラックに満載し時速100キロ超えで突っ込んでくるような業界の外道共とのバトルを描いた町田康の傑作小説。先程から「傑作傑作」ばっかり言って阿呆みたいですが、ぜんぶ傑作なんだから仕方が無い。

胡散臭い社長とか、鼻につく業界人とか、ボランティアを押し付けてくる奴等だとか、とにかく大量の外道が町田康の人生に登場してくるのですが、芸能業界のみならず、社会人なら身につまされるエピソードがてんこ盛りなんですね。全社会人に自信を持ってお勧めできる一冊です。

もしあなたが学生さんの場合、本書を読んで来る外道の来襲に備えておくと良いでしょう。そして社会生活に疲れたとき、また読み直してみてください。きっと変な元気が出るはずです。

一癖も二癖もある外道共との対峙では、形成が逆転することもなく、スッキリするわけでもなく、口中に苦虫の味が染み渡ります。しかし、何とも言えない読後感と、なぜか「俺も頑張ろうかな」と思えてしまうのは町田康の技術ゆえでしょう。あばば。

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