ダメ人間を味わう小説10選

岡田麻沙 岡田麻沙


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ダメ人間は愛おしい。どこか自分と似ているから。
「あなたってダメな人ね」と囁くとき、それは口説き文句である。
本格的に寒くなる前に、とにかく心を温めるべく、皆の大好きなダメ人間を味わえる小説を10冊集めてみた。

※著者50音順

伊坂幸太郎『バイバイ、ブラックバード』(2013)双葉社

太宰治による未完小説『グッド・バイ』へのオマージュとして書かれた長編小説。沢山の女性と同時進行で付き合っていた主人公の男が、全く関係のない女性から協力を得て、これまでの恋愛関係を清算するために恋人たちを一人ひとりたずねて回る。
5人の恋人がいる主人公・星野一彦のダメっぷりもさることながら、行き掛かり上彼の「清算」に協力することとなった女性、繭美まゆみの猛獣ぶりが痛快だ。別れを告げられた女性の顔を覗き込み、「泣かねえのかよ、つまんねえな」と言い捨てる。他人の不幸には拍手を、幸福には舌打ちをおくる下衆な人格。道理ではなく生理で動く繭美の姿を見ていると、次第に、正しいのはこいつのほうじゃないか? と思えて来るから不思議だ。真っ黒な気持ちの時に読んで、常識を笑い飛ばそう。

 

奥田英朗『空中ブランコ』(2008)文藝春秋

第131回直木賞受賞作。精神科医・伊良部一郎が患者を診察しないシリーズの第2弾。精神科医と聞くと、心の領域をケアしてくれる頼もしい存在をイメージするが、そんな幻想を木端微塵こっぱみじんに打ち砕く伊良部のクズっぷりは清々しい。先端恐怖症のやくざを脅してせせら笑ったり、空中ブランコに乗れなくなったと嘆く患者の相談話に耳を傾けるのもそこそこに「俺もブランコに乗りたい」と駄々をこねたり。注射を打たれる患者を凝視する瞬間だけ、伊良部の目は不気味な光を湛えていて・・・。
伊良部は自由である。自由すぎるのである。どう考えても医者が必要なのはこいつのほうなのに、彼は絶対に病まない。他人の迷惑なんて気にしないから。おかしい、どう考えてもおかしい。首をひねりながら読み終えた時、圧倒的な敗北感が訪れる。

 

太宰治『きりぎりす』(1974)新潮社

おわかれ致します。あなたは、嘘ばかりついていました。私にも、いけない所が、あるのかも知れません。けれども、私は、私のどこが、いけないのか、わからないの。

引用:太宰治「きりぎりす」『きりぎりす』(1974)新潮社

女性の独白スタイルで綴られる表題作は、出世した画家である「あなた」の妻が、「あなた」の嘘つきぶりを糾弾する短編である。丁寧だが辛辣な「私」の喋り口が笑いを誘う。本作は、二度、三度と読むうちに印象を変える。最初は「私」の言う通り、出世して俗物になってしまった「あなた」のダメっぷりが心に残る。だが何度か読むうちに、「私」が拘泥こうでいしている内容の偏屈さ・細かさにそら恐ろしいものを感じはじめる。親しい人間の変化を許さない頑なさが、潔癖という隠れみのをかぶって言葉を紡ぐとき、そこにあるのは地獄である。「あなた」もダメ人間だが、「私」もたいがいおかしい。太宰はクズしか書かないなあと実感させてくれる作品だ。

 

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