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「すばらしき映画音楽たち」全米が泣いた、巨匠ですら逃げ切れぬ締切

加藤広大 加藤広大


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subarashiki_eye

巨匠ですら逃げられない唯一の真実、それは締切

本作の音楽以外の見所と言えば、やはり作曲家たちの仕事への向き合い方、考え方が惜しげもなく語られる点でしょう。

作曲家、それも「偉大な」、「◯◯を手掛けた」と聞くと天才肌で気難しい人物像を想起してしまいがちですが、それは大いなる偏見であることが分かります。

ハンス・ジマーは「毎回、オファーを受けた時は最高だと感じる。でも皆が帰った後で青ざめるんだ。いったいどうやればいいか分からないんだ」と語ります。

彼ほどの巨匠ですら何をどうやればいいか分からない。頼まれごとを「できます」答えたものの、どうしたらいいのか分からなくなった経験は、誰しもお持ちなのではないでしょうか。

彼はこう続けます。

「その後電話で断りたくなる。ジョン・ウィリアムズに頼んでくれ! ってね」

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/08/6d9aa05cb504033be65150a3d1d8b338-e1502816562304.png出典:Youtube

最高です。まさかハンス・ジマーがこんなに人間味溢れる方だとは知りませんでした。ついでに半端じゃなく良い声なのも知りませんでした。

作中では、多くの作曲家が仕事に対してのスタンスを語ります。作業の仕方、音楽の捉え方、使用機材は千差万別ですが、共通しているのは「映画音楽は自由である」という考えです。

世界中の楽器や、ガラクタを使って音を作っても良い、周囲の音を生成、抽出して使っても良い、そこには無限と言っても良い組み合わせと可能性があります。

ダニー・エルフマンは「バットマン」の作曲に悩んだときに、師匠であるバーナード・ハーマンの教えを思い出します。それは

「映画音楽のルールは1つ、ルールはない」

ということ。とにかく自由なんですね。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/08/c587697b75cc574f1bb827e52bf3d72b-e1502816702776.png出典:Youtube

しかし、仕事をしている方ならばお分かりでしょうが、物作りにおける「自由」ほど楽しくて、厄介で、面倒くさいものはありません。

クライアントに「自由にやっていいよ」と言われた仕事ほど厄介で、面倒くさいものはありません。私も何度も言われたことがありますが、死後裁きにあえばいいのにと毎回思います。

話がスリップしました。それが何百億もの制作費をかけて制作されるハリウッド超大作ならなおのことで、さらに「音楽」という形の無い品物を納品する。この「自由」がどれだけのプレッシャーかを想像するのは難しくありません。

そうそう、プレッシャーと言えば、私が本作でいちばん心に残ったのは、作曲家たちから語られた締切エピソードの数々です。

締切まで2週間しかないのにまだ半分できていないだの、プロデューサーから締切に向かってカウントダウンするオリジナル時計をもらっただの、涙なしには鑑賞できないエピソードの連続は、締切は世界共通であり、世界トップレベルのクリエイターをもってしても、決して逃げられないものであると改めて認識させられます。

誰もが笑いと共に締切を語りますが、文字通りデッドライン、つまり死線をくぐり抜け、無事に仕事が終えたからこその「あの時は大変だったんだよ、こんなことがあってさあ……」という若干乾いた苦笑いであり、もう共感しかありません。

「あんな巨匠ですら締切に怯えているんだ、締切には勝てないんだ。じゃあ俺が勝てるはずない。今まで何を悩んでいたんだ」と、私はこの映画を観て意味不明な勇気を貰った気分です。

「全米が泣いた」歴史をぶつけてくる絶頂のラスト

映画のラストにも少し触れておきましょう。本作では、映像に音が重なったときに、人間にどのような作用を与えるのか、音楽は映像にどのような力を与えるのかについて、「ロード・オブ・ザ・リング」におけるモチーフの扱い方や、「E.T.」のラストシーンを引用して、丁寧な解説がなされます。

つまり「これこれこうだから、映画で人は感動するんだよ」という種明かしをしてくれるんですね。

この種明かしは伏線となっており、ラストでは今まで説明された「誰しもが感動する」演出を、「だから言ったでしょ? その通りだったでしょ?」と、もうベッタベタに仕掛けてきます。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/08/0fe1a3b133963675913a525495c1a910-e1502816997666.png出典:IMDb

琴線に触れる、どころか、バッチバチにスラップされてしまうほどのオーケストラの演奏は、思わず笑ってしまうくらいの潔さで、テンポを上げて次々と「音楽は素晴らしいんだ、人を感動させるんだ」と畳み掛ける作曲家たちの援護射撃と、音楽の力で一気に持っていきます。

マット・シュレーダーのテンションは絶頂に達し、「さぁ、これから打ち上げです!」と言わんばかりに映画はエンドロールに突入します。

さらに、監督のサービス精神はとどまることを知らず、「二次会会場はこちらです!」と言わんばかりにクレジットの最中にもギフトが用意されています。

しかもジョン・ウィリアムズ的なメソッドに則っているからこれまたニクいのです。映画を通して観た人だけに分かる、感動的なお土産です。

ある意味とてもアメリカ的であり、一種「全米が泣いた」映画の総括とも言えるようなラストは、ちょっと凄いですよ。

そんなわけで今回観て来ました「すばらしき映画音楽たち」は、タイトルに偽りなし。素晴らしき良作でした。

最初に申し上げましたとおり、公開館は少ないものの9月以降は東京以外でもかかるようです。お近くの方はぜひ。

「すばらしき映画音楽たち」公式サイト

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