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「すばらしき映画音楽たち」全米が泣いた、巨匠ですら逃げ切れぬ締切

加藤広大 加藤広大


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出典:「すばらしき映画音楽たち」オフィシャルHP

「すばらしき映画音楽たち(原題 SCORE: A Film Music Documentary)」は、傑作ながらも好事家以外には見過ごされてしまう危険性があります。

公開館の少なさは言わずもがな、「ハリウッド映画を支える音楽製作の舞台裏」、「あの名曲を手掛けた巨匠たちのインタビュー」などと宣伝文句は踊りますが、こう聞くと音楽好きや、シネフィル御用達のドキュメンタリー作品だと思われて敬遠してしまう方もいらっしゃるでしょう。

しかし、ひとりの男が「映画作曲家たちのドキュメンタリーが観たいけれども、誰も撮ってくれないので会社を辞めて制作した」という、完全にどうかしている情熱から製作された映画である。

と聞くとどうでしょう? さらに、

世界中を飛び回り、2年もの歳月をかけて作り上げられたドキュメンタリーフィルムは、観客に音楽や映画のリテラシーをほぼ求めず、上質なエンターテイメントとしても楽しめる。

どうでしょう? ちょっと観たくなりませんか? ついでに

著名作曲家たちの仕事ぶりは、人間離れしているわけではなく、悩みも不安も、楽しみもある。それは職種が違えど私たちの仕事にも通じる普遍性があり、代入も可能である。作中で語られる多くの言葉は私たちに、笑いと勇気を与えてくれる。

「そこまで言うなら予告編だけでも観てみようかな〜」と思っていただけたならこれ幸いです。懇切丁寧、誠心誠意、締切死守がモットーの当コラムですから、しち面倒臭い検索をかけずとも下にしっかりとご用意してあります。どうぞ。

Reference:YouTube

予告編を観てみると、「E.T.」、「インディ・ジョーンズ」、「007」、「バットマン」、「パイレーツ・オブ・カリビアン」などなど、テーマ曲が一小節でも聞こえたならば、すぐにでも名前が浮かぶような作品が登場します。

これらの楽曲は誰の手によって、どのように制作されているのか? 映画のなかの音楽は観た者の心や身体にどのような作用を起こすのか? などのトピックが、90分ほどの短い時間のなかで次々と明らかにされていきます。

もう徹頭徹尾「映画音楽っていうのはこういう風に作られているんだ」とか「こんなエピソードがあってさあ」と、誰かに話したくなってしまうネタの宝庫となっており、そのまま書くと完全なるネタバレになってしまうので、避けるには作品の周りをぐるぐると回るしかありません。

なので、冒頭でご紹介したおすすめポイントを中心に、以下話を進めていくこととします。

情熱の監督、その名はマット・シュレーダー

映画は、マリブの雄大かつ、恐ろしいほどに静かな風景のショットからはじまります。自然のなかにぽつんと現れる異物、コンテナに乗ったピアノが一台。そして遥か彼方まで張られた銀色のワイヤーが数本。

アメリカ人作曲家のマルコ・ベルトラミが、「このワイヤーで音を伝えると、エコーのような効果が得られるんだ」と語ります。余りにスケールが大きいので、この時点で「あ、これは今からちょっと頭がおかしい人たちが出てくるのだな」と、幕開けに相応しいワンパンを観客は喰らいます。

このワンパンを冒頭に持ってきた張本人が、監督であるマット・シュレーダー。3度のエミー賞を受賞しているやり手プロデューサーです。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/08/dab1c052361f1729c1c30efd1bfbad21-e1502814491712.jpg出典:IMDb

先程も書きましたが、彼は以前より「どうやって映画作曲家たちは映画音楽を作っているのか」についてのドキュメンタリーが観たいと、ハリウッドのプロダクションに頼み込んでいました。

しかし、なかなか実現してくれないので「それなら俺が撮ったるわ」と友人を口説き、勤務先であるCBSを退職し、クラウドファンディングで資金を調達し、本作の制作にこぎ着けたのです。

ドキュメンタリーフィルムを制作する動機は、監督によっていろいろでしょうが、自分が観たいから撮る、こんなに正しく初期衝動に溢れた理由があるでしょうか。ほとんどパンクです。

本作のおおまかな流れを俯瞰しますと、リュミエールの時代から現在まで、映画の歴史を辿りながら時代ごとにエポックメイキング的な作品を取り上げ、それに関して作曲家自身が、ときには他の作曲家がコメントを付けていきます。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/08/18180b18eefa47e9f3cf555885f968aa-e1502815336457.png出典:Youtube

この手の映画ではお決まりの、音楽/映画評論家は味付け程度にしか登場しません。世代も時代も違うものの、同業者に向けた同業者のコメントは各々の「仕事」に対するリスペクトに溢れています。語られる言葉が本音か提灯かは、ぜひとも表情に注視してみてください。ここを見るだけでも価値があります。

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