昔聴いていた音楽が、ある日まったく違った曲に聴こえたり、小説を読み直したら、まったく違う言葉が胸に響いたりと、時間を経て再び出会った作品に、以前とは別の感想・感情を抱いたことがある方は多いのではないでしょうか。
これは映画も同じでして、初体験から十数年後のある日に観たところ、また違う見え方をしたという経験がある方も、これまた多いかと思います。
そこで、やや個人的ではありますが、今回のコラムでは、「10年後、20年後に再び出会って感動した映画」をテーマにお話してみたいと思います。
ちなみにセレクトですが、90年代〜00年代前半が多いのはごめんなさい。なぜならば、私はその時代に青春を過ごしたからであり、かつ最近再び出会った作品が多いからでございます。ご容赦くださいませ。
トゥルー・ロマンス
「トゥルー・ロマンス」は1993年のアメリカ映画で、監督はトニー・スコット、脚本はクエンティン・タランティーノが担当しております。
Reference:YouTube
主演はゲイリー・オールドマン・・・間違えました。クリスチャン・スレーターが演じる狂気のオタク、クラレンス・ウォリー。
ストーリーは、コミックショップに勤めるクラレンス・ウォリーがコールガールのアラバマ・ウィットマン(パトリシア・アークエット)と恋に落ち、アラバマのポン引きを殺傷して彼女の荷物を持ち帰ったところ、中にはコカインがぎっしり。
そのコカインはマフィアの所有物で、2人は追われる身となります。ハリウッドに向かった2人を待ち受けている運命は果たして、というお話で、いわゆる逃避行物ですね。
はじめて観たときはもう、「バイオレンス! ドラッグ! エルヴィス!」と大興奮でして、単純に面白く、馬鹿になって観ていた記憶があります。ちょうど私もエルヴィスサングラスを持っていたので、「これは俺の時代が来たな」と嬉しくなった記憶があります。よく考えればその頃の私は「馬鹿になった」のではなく、馬鹿そのものでした。
出典:IMDb
この映画に再び出会ったきっかけは、数年前にトニー・スコットが亡くなったのと、良く行っているバーで本作のテーマ曲、郷愁をくすぐるハンス・ジマー印の『You’re so cool』が流れて、「ああ、懐かしいですね」なんて話していて、その勢いもありました。
はじめて観た時から十数年、私も大人になりました、しなくても良い経験も沢山積みました。で、観たらどうなったのか。
ガキの頃に憧れた、カッコよくて、イカしていて、クールだったクラレンスは、なんとダサくて、不器用で、衝動的で、どうしようもない奴だったのです。でも、それが痛々しくて、まるで自分の黒歴史を
Reference:YouTube
何より、アラバマのネジの飛びっぷりに改めて観て驚嘆しました。「ポン引きを殺して来た」と告白するクラレンスに、溜めに溜めた演技で「・・・・・最高!」と答える。もうこんなに良い女だったのかとドン引きしつつも惚れ直しました。
普段大人しい人間ほどキレたら何をするかわからなかったり、加減ができないというのはひとつのクリシェですし、普段は抑圧されている人間がいざ暴力性を開放したときには、行き着くところまで行ってしまう、しかも銃を抜いたのならなおさらで、もう後戻りはできないのです。この感覚も、以前観た時より胸に響きましたね。
10数年後に再び出会ったクラレンスは、見方を変えれば映画の中の存在ではなくて、「昔の俺」を映画という鏡を通して見ているようで、ちょっぴり感慨深いものがありました。