発病寸前のポップが迫りくる「かしわや」の魅力
東急東横線、学芸大学駅の改札を出て右に真っ直ぐ歩くと、いかにもチェーン展開された蕎麦屋然とした店舗が姿を現す。
近くに寄ってみると、窓ガラスに無造作に貼られた「季節限定!ガパオライス!」「いなり!」など、最早何がメインなのかわからない発病寸前のポップたちがにぎやかに出迎えてくれる。このヤケクソ気味に貼られた発病寸前のポップも、かしわやの魅力のひとつだ。
どれもこれもが主張して「食べてくれよぉ、おすすめだよぉ」と見るものに訴えかけてくる。怖い。その押し付けがましさ、トゥーマッチさたるや、知らない方ならば「よし、よくわかんないから他の店に行こう」となっても仕方のないほどである。目の前にはオリジン弁当もある、ちよだ鮨もある。
前述したが、この店は調理人によって味がかなり変わる。確認しただけでも数度、深夜の担当が変わったと同時に、味が大きく変わった。
そしてそのどれもが、「不味くはないけど美味くもない、つまり普通」という評価である。
が、それは素面の状態での評価である。泥酔状態でとなると、もう確実にミシュラン受星である。
私は以前通っていた祐天寺店が潰れてから、学芸大学に引っ越して数年ぶりにかしわやとの再会を果たし、日々その周辺の飲み屋で泥酔した後、完全にどうかしてるメニューたちを食べては、「うわぁ、懐かしいなあ笑」と一人笑っていた。
なかでもいちばんのお気に入りは、豚丼+コロッケという組み合わせだった。甘辛く煮た薄切りの豚と玉ねぎに、ささがきされた牛蒡が入っているのが嬉しい。
これだけでも美味いが、常温に戻されて元気が無いワラジのような、もはやコロッケではなくヨロッコとでも呼ぶべきコロッケにウスターソースをたっぷりかけ、丼の上に乗せて一緒に食うのが、これまた美味い。酩酊状態で馬鹿になった脳に強烈に効く。
この食べ方を発見してからは、一生これしか食えなくてもいい。そう思っていた。そう、醤油ラーメンを頼むまでは。